眼前で降り下ろされる竜の爪。
 弓を引いたまま紙一重、自分のいた場所で吹き飛ぶ雪。
 矢が飛ぶ、尾がしなる。
 狙いとまるで違う場所で黒が爆ぜ、次いで鋭い衝撃が弓を打つ。
 ネコの構えた樽ハンマーが竜の顎を捉えたけれど、蚊ほども気にかけるそぶりは無い。

 竜は、このネコはさしたる脅威にならないと思ったらしい。
 睨み据えるのはただ一人、黒く爆ぜる矢を射る狩人一人。
「ダイン、コイツは引きつけとくからアンタは本命」
「りょーかいニャ」

 狩人と竜が死闘を繰り広げている、そのほぼ真下。
 断崖絶壁、ぽっかり空いた孔の奥。
 すやすやと、寝息を立てる黒鋼。
 最近やって来た五月蝿いののお陰で新たなねぐら開拓。
 吟味に吟味を重ねて見付けた、奥まで音が来ない場所。

 その奥に一輪咲いた薄紫。
 彼は肉を食わない。彼は草を食わない。
 主食は鋼、おやつは宝石、有機物は専ら大地の結晶。
 だから人が宝石を愛でるように、彼はそれを愛でる。
 周りの草に薬効がある事を経験から知って居たが、ここでは無用。
 誰に摘まれる事も無く美しく咲き、朽ちて行くのだろうと思っていた。

 緩やかに出来た傾斜を、赤い雫が伝うまで。


   ――――『雪山の龍姫』―――
           緑と白と

 くるりと振り返る竜。
 睨み据える先は狩人一人。
「有り難いのか不味いのか……」
 気遣う労力は半減、かかる緊張は倍。
 迫る牙をひらりと避けて、立て続け振るわれる腕も見越した範囲。
 過たず見切った間合いの中で放った矢が竜の左目を抉る。
 痛みに悶え、怯み、そのスキを見逃さずもう一本。
 けれども油断はするまい。
 僅な気の緩みが、僅な惰性が、何を招くか解ったもんじゃ無いから。
 構えは大振り、スキだらけ。
 けれど、弓を引き絞るとなればギリギリ。
 つがえる間も無く迫る腕、矢を手にしたまま潜るように後ろ側。
 竜が弾き飛ばしてくれるとばかり身を捻り、回り。
「そいつにやられるのは、もうごめんだよ」
 足を踏みしめ止まろうとした竜の尾を、ザクリ。
 だらりと伸びた尾の長さ、避けるとなれば驚異でも、斬るとなれば話は別。
 この竜、小さな痛みの方が癪に障るようで。
(……準備が整うまで、もうちょい辛抱!)

 私が気に食わないならそれでいい。
 そうやって小蝿に構ってる間に、足元を掬わせてくれれば。

 けれど、竜の追撃は止まらない。
 矢を取り出す、竜が睨む。
 弓使いなら必然のスキを、コイツも学び始めている。
 ますますもって長期戦は望めない。
 しかし、ここで仕留めなければならない。
 出来なければ、村と畑はコイツの餌場と認める事に。
 四六時中掛かりきりなど御免被る。

「ご主人!!」
「あいよっ!!」
 リズムを変えろ、テンポを変えろ。
 矢を捨てる、この弓は軽い、駆ける足はダインの方へ。
 砂漠からの客人、みすみす飽きさせるな!

 駆けて、駆けて、駆けて。
 ずぽっと言う音と同時に振り返る。
 黄色い竜、逞しい上半身だけ、雪の上。
 雪の下に作った天然の落とし穴。

 矢筒に取り付けるのは青い瓶、睡眠毒。
 当たり所は考えない。毒さえ染みればそれで良い。
 つがえ、射る、一心不乱、繰り返し。ばら蒔かれる無数の矢。
 数回ほどで突き刺すような殺意が揺らぎ、溶けて、沈む。

 それが高いびきに変わるのに、さほど時間はかからなかったけど……。

「……っ……は……っ」
「ご主人、爆弾ボクが置きますかニャ?」
 張りつめていた物が消える、一時の安堵。
「いや……私がやるわ。準備どれほど……?」
 けれど本音を言えば、このまま膝を付いてしまいたい。
「良い具合の氷柱があったからもうすぐ出来ますニャ」
「なら急ぎな」
「あいニャ」

 ……大樽爆弾を並べながら考える。
 眠らせたのは失敗だったかもしれないと。
 予想外に、しんどい。
 動きそのものもそうだが、何より強い。
 その爪を掻い潜るたび、目を合わせるたび感じ取れる。
 相手の強さ、越えてきた修羅場。
 そんな事を思ったのは、始めてリオレウスを狩った時か。

「アイツは、まだ健在かねぇ……」
 縄張り目当ての若者の力量を計るのに、狩人を使った強か者の蒼火竜。
 怯え、あるいは勇んで弓を引いていれば、間違いなく消し炭か腹の中。

「あんな仰々しい礼が出来たのは、やっぱビビっとったからかのぅ……」
 などとぼやきながら並べた大樽、その数八個。規定外だが気にしない。
 慎重に距離を取り、弓を構え、矢をつがえる。

 けれども、まだ放たない。
 息が辛い、肺が痛い。
 それでも、まだ立ち止まれない。
「ふぅー……はぁー……」
 深く、深く息を整える。
 休息を求める体をゆっくり宥めるように。
 構える弓、つがえる矢は一本。
 真上から、囁くようなダインの呼び声。
「ご主人、OKですニャー」
「あいよぉー……」
 弓を引く、狙いを定める、休息を求める体が目を覚ます。

 狙いを定めるのは樽の横、掠めるように。
 間違いなく起きる、間違いなく怒る。
 本音を言えば、そのまま永眠して欲しい所だが。
「まだ、死なんだろうねぇ……」
「追い返すだけじゃダメニャ?」
「あんな印でかでかつけられてかい?」

 何気ない会話と共に矢が飛ぶ、樽を掠める、爆ぜる。
 爆炎、黒煙、次の瞬間それを裂いて迫る黄色と青。

「ご主人、避けて避けてニャーッ!!」
 ダインが叫ぶ、まだ引き付ける。まだ動かない。
 迫る竜、舞い上がる雪煙、回避に要する時間は一瞬でいい。
 途中で微調整とかされたら困るし、それをするのはこちらの方。

 竜が吼える。
 爪が雪を舞い上げる。
(いよっ……し!?)
 駆けた。駆けようとした。

 けれど彼女は気付けなかった。
 一面敷を敷き詰める白雪。
 人の足では踏み入れぬ層にあった硬さの違い。

 さしもの竜とて、右手をハンマーで叩き潰されては痛かったらしい。
 下の雪は硬く、爪を食い込ませれば痛く。
 そうなれば、自ずと雪を掻くバランスが崩れる。

 結果、その軌跡が右手へ、右手へ……即ち、リィが逃げてる方向へ。
「あー……」
 迫る、足は止められない、避けられない。
 爪、雪煙、巨体、爪、雪煙、巨体……。
 走る足はそのまま、ただ、ただ、考えていた。
 思考は目まぐるしく、時間の流れが緩やかに見えるほど目まぐるしく。
 避ける術、逃げる術、衝撃を抑える術。
 引き延ばされた一瞬の中、駆け巡る様々な案は尽く却下され。
 僅かに体勢を低くした所で、裂かれる場所が腹から背に変わっただけ。

 爪が内臓に至る確率が数%落ちただけ。
 仕込んだ罠が当たるかどうか。撤退できるかどうか。
 上手く逃げ仰せて、受けるだろう致命の一撃をどう処置するか。
「リィさん!!」
「はぃっ!?」
 思考が敗者のそれに切り替わった時、雪の下から伸びた何かが彼女の手を引いて……。

 ずっぽん。

頭から雪の下へご招待。
 でんぐり返った格好のまま見てみれば……。
「ギ……ギリギリでしたー……」
「危機、一髪」
 四つん這いのマイラと太っちょ。
 心配そうに覗き込むマイラの顔がほんのり赤い。
 肩に巻かれた包帯には、まだ気付かない。
「む〜……助かったけど何ご……」

 グギャアアアアァアァアッ!!

 言いかけた言葉を遮る竜の声。
 声と言うより、悲鳴のようで……。
「む〜……コイツは、ちと失敗かな?」
 何とか体勢を整え、マイラと一緒に首から上を穴の外。
 見れば左の翼を氷柱に貫かれた竜が、呻き声を上げつつ四苦八苦。
 その更に左には、大きな氷柱……の、ような岩。

「アレ刺されば、流石に即死するかなーと」
「なかなかにエグいですね」
「取り合えず、翼はもう駄目でしょうニャア」

 もがく竜の向こう、モフ黒レベたんとバレルが別々の穴からこんにちは。
 何はともあれ、五体満足、竜はお怒り。
 これはいよいよ……。
「逃げられなく、なって来たのぅ」
 雪から首だけ、この状態で矢が抜けるはずなど無い。
 それでも、矢筒に手を伸ばすのは半ば癖のようなものだったが……。

 スカッ

「ん?」
 矢があるはずの場所を、手が抜ける。
 さすがにこの状態で竜に振り向かれると後が悲惨なので潜って確認。
 更にその前に安全地帯まで戦略的撤退。
 雪の下に出来上がっていたトンネルを四つんばい。
 濃紺太っちょ先頭に、黒髪、緑髪のそのそと。
 背中の軽さと、つっかえないことに感じる一縷の不安は置いておく。

「で、このトンネルは何なんだい?」
「えっとですねぇー……」
「レベたんが言うにはドドブランゴが掘った跡らしいニャア。時々良い具合にえほえほ……」
 自慢げなマイラの言葉を遮り、ふとっちょが雪を掘り掘り。
 レベたん曰く、ドドブランゴが潜りきれる場所は結構限られているそうで。
 潜行を多用するような固体の場合、場所によって雪の堅さに差が出るとの事。
「時々って、どんなかの?」
「そこは何となくと言ってましたニャア」
 状態によっては撹拌されていたり偏っていたり。
 太っちょも何となく解るのだという。
「むむー、経験の差か」
 雪山暮らしウン十年、やって来たばかりのハンターに遅れは取らない。
 ちなみに本日の雪の量、いつもよりちょっと多し。

 途中でレベたん立ちと合流。四つんばいの状態で進んだ先は雪山の頂に近い場所。
 雪から顔を出したリィを出迎えたのは、真っ赤な何か。
 それが腹を裂かれたドドブランゴと気付くのが遅れたのは、その中身が空だったから。
「うひー……内蔵から喰うのは肉食の基本基本……」
 もっとも、人間であれば内蔵と言わず丸ごと、ごっくん。
 不意に、その有様が脳裏を過ぎって首を振る。
 ああ、ネコのサイズなら文字通り、租借すらされず丸呑みだろうと。

 そして、今まで気になっていた背中の方を確認すれば……。

「うわー……」
「あらー……」
「ニャア……」
「コレ、不味くないですかニャ……」
「どうするニャ……」

 そこには、見事に上半分が吹っ飛んだ矢筒が転がっていた。
 表面を覆っていた筈の緑の布袋はスッパリ切れていた。
 中の矢もまたしかり。

 対飛竜用の、剣と言って良いような矢尻が無事だったのは不幸中の幸いか。
「あの……リタイア、ですか?」
「いやー……村まで御礼参りされても困るし、ここで仕留めるつもりなんだけども」
 片手剣の心得があるなら、剥ぎ取りナイフで戦った方がマシかもしれない。

 などと落胆しつつもリィの目はまだ戦うつもりでいる目。
 状況の不利は諦めの理由にならない。

「ダインにバレルたんや、キャンプまで替えの矢筒お願いできるかひ?」
「あいニャ」
 正しくは、替えの矢が入っている筒であって「矢筒」ではない。
 ハンターボウ等弓に瓶をセットするタイプの物が基本。
 矢「入れ」に瓶をセットする機構があるかどうかは解らない。

 そして、その素材は恐らくただの木。
 発火性の粉を擦り付ける事、超低温に浸す事、摩擦で電気を帯びる事。
 素材その物に込められた、ある種のエネルギーを矢に宿すこと。
 それらの機構は弓にも無いことはないが、大抵の場合、それは筒にある。

 状況の不利は諦めの理由にならない。
 けれど、それは無謀とは決して違う。

「ついでにマイラたんも送っといて」
「私も手伝えますっ!」
 予想通りの答え。リィはやんわりと、マイラの破れた肩に手を乗せる。
「熱、こもってるよ。こんな所で潰れるわけいかないだろ?」
「うー……」
 苦虫で解毒したと言い返せば、ソレは決して万能薬では無いと返す。
 考えている事はお互い同じ。何かあったら、街で嘆く奴がいると言う事。
「あと、テムジンに替えの弓を届けさせるよう頼んでおくれ。ついでに爆弾もの」

 そうして残ったのは、リィと、レベと、太っちょと。
 後はマイラが置いてった爆弾やら薬品やら。
 本当にドドブランゴを狩りに来たのかと……。
「……ボクなんかが、残って良かったのニャ?」
 ちょっとオドオドしてるレベたんを見るに、安心感のためだけかもしれない。
 腕利きの太っちょと一緒に残されては仕方ないかも知れないが。
 そんなレベたんの頭を撫でるリィ。
「レベたんじゃないと出来ない事があるのさ」
 撫でる手が、段々モフモフを楽しむ手つきになってきて慌てて逃げる黒モフ。
 太っちょは助けちゃくれない。
「で、弓が来るまでどうしますニャア?」

 向こうから唸り声がまだ聞こえるあたり、まだ氷柱は刺さったままらしい。
「モンスターの体液その他、トウガラシや接着剤も混ざっとるしのう」
「エグいニャア」
「聞いてるだけで痛いニャ……」

 まずは壊れた矢筒を下ろす。
 矢はそのまま、底に毒瓶を敷き詰め本来接撃瓶に注ぐキレアジの脂を流し込み。
 余ったベルトで手桶のように。
 腰にあった剥ぎ取りナイフは無事だった。
 ギザギザの峰は、本来ソードブレイカーだけど……。
「ふんふんふーん♪」
 瓶に使うにはベトベト過ぎる毒テングダケの溶液を塗り塗り。
 本来血抜き用の溝までべったり。
 何だかさらにエグそうと、ちょっと引き気味ネコ二匹。
 くるり振り返る主人が怖い。
「して、君らは何をボケッと突っ立っておるのかね?」
 竜より怖いと思ったものである。

 ……その竜はと言えば。

「グルル……ウゥゥ……」
 未だ動けぬまま、本格的に命の危機を感じ始めていた。
 突き刺さった氷柱は大きく、重く。
 皮膜のみならず腕にまで傷は至っていたから。
 もはや岩といって良い強度の氷柱。
 使い捨てだからとばかり塗り込まれた毒袋の中身。

 既存の兵器で言えば巨龍討伐に用いられる龍撃槍一本分に匹敵する一撃。
 抉るような回転は劇薬の類が取って代わり、痛みの継続に関してはそれ以上。

 肘をえぐり、伝うのは毒と冷たさ。
 相まったそれによる焼けるような痛み、けれど引き抜く事叶わず。
 噛み砕こうにも毒の柱、首がそこまで回らなかったのはむしろ幸運か。

 痛い、熱い、痛い、熱い、痛い。
 いかに強靭な生命力があったとて、痛いものは痛い。
 しかしそれが無ければ体は歯止めを忘れ自壊する。
 強靱な生命力はつまり、死の安息からはほど遠いと言う事。

 どうしようも無い現状。
 己を絶対強者と信じる者には耐え難い屈辱。
 けれどソイツは、考えを改めようとは露ほども思わなかった。
 自分は力ある者だと、奴らは小さく脆い物だと。
 黒鋼の龍なら認めよう、砂漠の一角竜なら認めよう。
 けれども、あんな小さな生き物に自分が劣るなど認めないと。

 ……そんな竜の耳に、雪を踏む音が響く。

 チラリと首を動かすと、居た。
 あの小さな生き物が居た。あの、小賢しい生き物が居た。
 その更に小さな口元が吊り上がる意味を、ソイツは種を超えて理解。
 そして……。

 ぶつっ……ビッ……!!

 翼膜が裂けた。抉れた肘が冷気に触れた。
「グルァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 焼け付くような痛みなど、怒りと憎悪に塗りつぶされた。

「ふふ……そう来なくてはの」
 けれど彼女は、こちらを睨み据える憎悪など何処こ吹く風。
 轢き潰さんと迫る竜を紙一重。
 竜はとって返そうとして傷の痛みに叶わず。
 だらしなく垂れ下がる尾を、猛毒にてらつく刃が目ざとく刻む。

 鬱陶しいとばかりに降り下ろした腕は紙一重で届かず。
 更に振るえば一歩後ろへ。

 鬱陶しい、小賢しい、邪魔。

 もはや言葉にならぬ諸々の感情が咆哮に代わる。
 小さく脆い生き物、この一声で砕けてしまう生き物。
 待っていたとばかり放たれた閃光が目を焼く。
 構わず吼え続けた。
 どうだ一歩も近寄れまいと、所詮は小さな生き物だろうと。
 視界が定まらぬまま、口元がつり上がる。

 口元に向かって放られた物を、噛み砕かない理由は無かった。

 けれども、それにふとした違和感を覚える。次に感じたのは危機感。
 人で言えば、ホットドリンクと麻酔薬を間違え、けれど……。

 ゾシュ……ッ

「――――ッ!?」
 そうと解った瞬間、飲み干してしまうような。

 勿論中身はそんな可愛い物ではない。
 毒と刃の満ちた、半分に壊れた矢筒の残骸。
 喉の奥、普通の食物さえ咽せそうな場所。
 その圧力で筒が砕ける。中の刃は折れてなお鋭い。
 無数のそれらが喉を裂き、粘つく毒は傷口から、食道から、胃から。
 吐き出そうにも何本もの刃が既に、毒を纏って喉の奥。
 悲鳴を上げようにも喉が焼ける。

 目の前の生き物の手に、喉を焼くのと同じ毒にまみれた刃。
 焼ける喉、痛く、暑く、けれどソイツは叫んだ。
 本能のまま、声なき声で叫んだ。
 沸き上がる怒り、苛立ち、憎悪、殺意、全てを吐き出すように叫んだ。

 その叫びにはもう、脳を揺るがす程の力も、辺りを吹き飛ばす程の力も無い。
 咆吼を封じたと確信するリィの口元が、不自然な程に吊り上がる。
 ――なんとか、なるか。
 弓があっても矢がない。片手にはナイフ、盾はない。
 細くシンプルな弓は鞭のようにしなるが、竜相手では牽制にもなるまい。
 その一撃が文字通り命取り。
 脳を揺さぶり、体を竦み上がらせる咆吼。
 守る盾が無いまま、動けぬままな裂かれ食われるなど御免被る。

 弓を横に、剣を青眼に。

「例えアンタが世界一だとしても……」
 竜の腕に浮き上がる赤。もう許してはくれまい。
 籠手の中で手が汗ばむ。一撃たりとも受けてはいない。
 しかし、先ほどのような失態はもう許されない。

 ちらりと後悔し、けれど村と畑をコイツの餌場にはするまいと思う。

「この山では、二番目だ」

 ――こんな事なら、弟から双剣の手解きでも受ければ良かったかね?