「で、この子どうするのさ」

 森の中、ひしゃげた木々。
 真ん中で眠る蒼火竜。それを見つめる狩人二人。
 一人は蒼髪紫眼の少年。黒い甲殻の胸当てと赤い鱗の肩当て。
 もう一人は赤い服、薄紅羽根飾りの赤帽子。
 二人の周りにわらわら集まる運搬アイルー。
 少年がまさかと思って投げた麻酔玉、本当に効くとは思わなかった。
 けれどその顔色は優れず。

「どうしたの、ディ?」
「いや、コイツどうなるのかなって」

 娘が殺されかけた。依頼主の鼻息荒い声が脳裏を過る。
 そういった依頼は少なくない。
 お偉いさんの報復で群そのものが消えたなんて話もある。
 理不尽な死に、ハンターも一般人も、モンスターも無い。
 無かったけれど……。

「コイツ、怯えてたよな……」

   ――――『ちいさな王様』―――
          つまかった?

 その姿が、余りに哀れだったから。
 その姿が、誰かと重なってしまったから。
 この後に、更なる責め苦と死が待っているなんて、考えたくなかったから。

「飼うにはね、一応資格が必要でだね……」
「それはもう取ってる。暇な時試験埋めておいたから」
「はぃ?」
「火怨病みたいな時とか、何かできないかって」
「ああ無理。ディア乗り回してたのがそれで死んだ」
「……そう……」
「飛竜はそんなにボロボロ泣かないしね」
 少し流行った病。押さえていたのは飛竜達、特効薬はその涙。
「あー……だから最近になって増えてるのかぁー」
 ソレは希望だったり、打算だったり、可能性の模索だったり。
 蒼い方も、それで両親を失った。

 けれども赤衣の青年は気付いている。
 少年の言葉は真実でも、今は言い訳でしか無い事に。
 だからといって……真っ向から反対して後悔を刻む事は出来ない。

 それで、これ以上落ち込ませたくなかったから。
「まずはあのおっさんの説得からだねー」
 溜め息一つで、その子の行く末が決まってしまった。

――身勝手な話と言うのは、百も承知だった。
――同じ身勝手なら、未来がある方が良いと思った。
――生きて苦しむ、知っていたはずなのにな。

 深く深く眠っていたその子は、一時目を覚ました。
 うつらうつら、体に力が入らない。
「グー……ガッ?」
 いたのはあの蒼い奴。 どっしり座って、こっちを見てる。
 どうしよう。何をする気なんだろう。
 気だるい体で、後退り。
 だからその子は気付かない。外から部屋を伺う三つの影に。

「……大丈夫そう?」
「大丈夫も何も怯えまくってるニャ。稀に見るチキンニャ」
「あの様子じゃ調教されるか暴れ物になるかの二択だニャー」
「つまりは、責任取れって事ね」

 その子は何も知らない。
 自分を捕獲、あるいは殺すよう命じた者のあっけに取られた顔も。
 とても怖い怖い蒼色の、心の底からの安堵も。
 ただ……。

「なぁ……」
「ここまで怯えているのも珍しいわねぇ……」

 次に目が醒めた周りは薄茶の土壁。
 目の前にいるのはあの蒼色のと小さな緑のとんがり耳。
 その子にとってしてみれば、ただ人の巣に連れてこられただけで……。
 そんなその子の目の前に、小さな緑が一歩前。
「こーんにーちっわ?」
「ピギャアアアアッ!」
 いつ食べられてしまうのかという恐怖で頭が一杯。
 頭は真っ白、翼の先で土壁ザリザリ。
「これはまた、重症ねぇ……」
「勘弁してくれよ……」
 小さい緑は笑顔のまま呆れてた。
 蒼いのが顔を覆って壁に向かって蹲る意味なんて勿論知らない。

 その日は何もされずに済んだ。
 二人がいなくなって初めて、びっしり並んだ鉄の柱に気付いた。
 二人はともかく、自分が抜けるには狭すぎる。
 向こう側にも同じ穴、同じ柱。その向こうには何もない。
 でも、自分がいる内側はそれなりに広かった。
 飛ぶのは流石に無理だけど、ゴロゴロするにはちょうど良い。

 ゴロゴロ、ゴロゴロ……。
 翼にくるまる感じでゴロゴロ……。
 ゴロゴロしているうちに、うとうと、うとうと。
 お日様は見えなかったけど、お腹の音はいつもの通り。
 どこからか不思議な音が聞こえて来て、そのままうつらうつら。
 深ーい夢の中へ。

 そしていつものように目を醒ます。
 この土壁の部屋と言う現実は代わらなかったけど……。

 うっすら開けた目に、あの蒼いのがいて……。
「ギュッ!?」
 ビックリ。
 自分の顔というか目を覗き込んでいてビックリ。
 何、何、何するの?
 心配事はそれだけ。
 食べられてしまうのだけは絶対嫌っ!
「……やっぱり、駄目か?」
「んー、いきなり襲いかかるより厄介かもしれないわね」
 じーっと、じーっと、蒼いのを見ていると、スッと柱の向こうに。
 その隙間が一ヶ所、大きく開いていることに気がついた。
 蒼いのが手を、手前にくいっと引いてる事に気が付いた。
 出ていいの? いけないの?
 罠かもとは思わなかった。だって引っ掛かった事が無いんだもの。

 一歩、また一歩。
「そう……良い子だ」
 何だろう、何がしたいんだろう。
 外には先がある。幅は狭い。でも自分は抜けられそう。
 ……ひょっとしたら? ひょっとするかも。
「ウゥ〜……」
「お……?」
「ディ君、解ってる?」
「ああ、大丈夫」

 上手くコイツをやっつけられたら、逃げ出せるんじゃないだろうか。
 ここは狭い。避けにくい。ひょっとしたらひょっとするかも。

「がぁーおぅーっ!!」

 そうと思えば一直線。
 ぷちっと踏み潰してやるぐらいの気持ちでいたのに。
「よし来たっ!!」
 追い付けない。上手く走れない。
 踏み出す足が浮いたり引っ掛かったり。
 なのに、アイツは真っ直ぐ駆けてく。
 何で、何で、何で?

 ふらふらよれよれしつつも辿り着いたのは広い場所。
 上はやっぱり土壁だった。
 ソイツはそこで立ち止まる。
 自分もそこで立ち止まる。

 ソイツが持っているのは赤い爪……剣という物。
「……逃げないな」
「手加減しない方がいいわよ〜」
 今度は一人だ。きっと、きっとと思ったんだ。
 思いっきり走って、思いっきり飛んで、思いっきり炎吐いて。

 とっても、とっても頑張って……。

「ギュウ……」
 ぼこぼこ叩かれて、穴にはまって、またぼこぼこ。
 ついでに黒いパチパチにもビリビリ。
 上に体当たりしてみた。
 痛くて落ちただけだった。

 くたくたに疲れた所で、不思議な音が聞こえて来た。
 うっつらうっつら眠くなる。
 穴から引っ張り出されて、何かに乗せられて……。

 うっつらうっつら……

 良い匂いがする。

 炎のパチパチいう音がする。

 美味しそうな匂いに誘われて、目を覚ますと……。
「お、もう起きて来た」
 土壁の部屋。あの蒼いのと小さな緑。
 腰を下ろしたソイツの前に炎の入った、その子にしてみれば小さな石。
 その両端からそれぞれ棒が生えていて、その上でお肉を回してた。
 その横、山積みの葉っぱとキノコと肉一塊。
 ……どうみても、蒼いのの方が美味しそう。

「キノコはまだ解る。野菜はどうなんだ、しかも残飯」
「うふふー。良い物食べさせたいなら、稼げるようになる事ね」
「まぁ、訓練先伸ばしにしてるからな……」
 そのジュウジュウ美味しそうなの……欲しいけど……欲しいけど……。
「つーかさ……コイツらまで使うんだな、ナイツって」
「そうねぇ、でもやっぱり外に出してあげたいっていうのが……ん?」
 目の前の良い匂いに我慢も限界。

 それ、ちょーだいっ!

 お、たまらず飛びかかってはみたものの……。
「おっとっと」

 ひらり。

 避けられた。そのまま地面にべったりと。
「ヴ〜……」
「えーっと……こう言う場合ってあげたら……」
「はい、第二ラウンドぉー……ファイっ」
 よーこーせーっ!!
「ちょっ、まーっ!?」

 いつの間にかお野菜と生肉お片付け。
 食べ物の恨みは怖いんだぞーっと頑張って……。
 今度は骨でポコポコにされました。さすがに凹みます。
「……ぐぉーん」
「あ、あーあ……」
 部屋の隅でぐるっと丸まって、拗ねてやる、拗ねてやる。
 もういいもん、いらないもん。どんなに良い匂いさせたって……。

「な、なぁ……流石に、ちょっと凹みすぎて……」
「ご飯でなければ、良いかしらね?」

 ん、なんか来る。何か来た。
 尻尾のそばに何か来た。
「ぐるる……がぁーおっ!!」
「うぉっ!?」
 お、ビビった。ビビったぞ?
 ……よし、明日からコレでいこう。

 二人が居なくなって、葉っぱとキノコとお肉が再び並べられた。
 当然生。さっきの美味しそうな匂いがまだ鼻に残っていて……。
 仕方がない。自分で焼こう。
 すぅ〜……ぼっ。

 コゲ肉になってしまった。

 ……ひょ、表面だけがから大丈夫、大丈夫……。
 葉っぱとキノコは流石にだめだったけど。
 お肉は結構美味しかった。
 焦がさなければ良かったなぁ……。

 その次の日も二人は来た。
 今度は簡単にはやられないぞーと言う事で……。
「……朝から拗ねてるか?」
「拗ねてると言うより……」
 早く来い、早く来い。
 のこのこやって来た所にきっつーいのお見舞いしてやるんだ。
「仕方ない。コレ試してからかしらね」
 後ろから、カラコロカラコロ音がする。
 何だろう、気にはなるけど、起き上がったら負けな気がする。
 負けのような気がするけど……。

 ぷぉ〜♪

 不思議な音色に、尻尾がピクリ。
「……ぐ?」
「よしよし感度良好。亜種って頑固な子が多いんだけども」
 プォ〜って音色がもう一度、今度は足がピクピク。
「そうなのか?」
「そうみたい。目立つって、安全に生きるには結構不利よ」

 その子は知るよしもない。
 自分の住処だった場所よりはるか東。
 お父さんの生まれ育った場所で、色違いが生きていくのはとっても大変。
 強く育つか、死んじゃうかのどっちかだったなんて。
「要するに、生き残ってきたプライドか……」
 笛の音が聞こえる。足がぴくぴくする。
 ぴくぴくして、ぴくぴくして……走りたくなって……。
「はい、第一ラウンドぉ……ファイっ」
「え……って、何とかならねーのかよコレーっ!!」

 走り回る二人の後ろで、小さい緑がぷっぷくぷー。

 足がピクピクしたり、翼がピクピクしたり。
 壁に覆われた広場をぶつからないように飛ぶのは、ちょっと面白かった。
 足がぴくぴくしたら走って、羽がピクピクしたら飛んで……。
 喉がピクピクした時に、炎をがーっと吐くのは気持ち良かったかも。
「……ぐ?」
 好き勝手されて終わったと気付いたのは、寝る前でした。

 翌日も広場に連れて行かれる。追い掛けっこは面倒だから止めた。
 蒼いのは何だか元気が無い。小さい緑は何時もの通り。
「なぁ……本当にやらなきゃダメか?」
「働かざる者食うべからずよ」
 けれどもその日違ったのは、広場に先客がいたこと。
 白い体、白い尻尾。
 くるりとこっちを向いた鼻先一本角。
 その影から出てきたのは何時かの赤いの。
「やっほー」
「ラウルも飼っててたのかよ……」
 白いのは自分をじーっと見ていたけれど……。
『君が今日の相手?』
 声を掛けられた。

 その子達の間に言葉はない。
 意思と意思を繋ぐのは、人とは比べ物にならぬ感覚。
 早い話が、もの凄く精度の高い「なんとなく」。
 それは人々が忘れ去った、最古の言葉だったのかもしれないけれど。

 相手って何だろうと首を傾げていましたら……。
『喧嘩して勝てたらね、美味しいものくれるんだよ』
 むっくり立ち上がった白い子、立ち上がると結構大きかった。
 その大きな白い子の足が、地面をざりざり引っ掻く。
 知ってる。白いお肉や茶色いお肉がやる奴だ。
 でも……この子はでっかいわけで。

 嫌な予感は、たちまちのうちに的中。

「ガァオォォーッ!!」
「ピギャーっ!!」
 大きな咆哮を上げた白い子が猛突進。
 長い一本角に追いたてられて、あっちにドタドタ、こっちにドタドタ。
「あれ、大丈夫か……?」
「んー、空の王者があれじゃねー」
「いや、そうじゃなくて……」
「一回さっくりいった程度じゃ死なないから大丈夫」
 事ある毎に蒼いのが凹んでいたなんて勿論知らない。
 ぶっとい尻尾で横っ面殴られたり蹴られたり、笛の音で飛び上がらなかったらきっと串刺し……。

 よく解らないけど、ここは喧嘩させる場所って事だけは解った。
 翌日はトサカ付きの変な鳥。変って言ったら……。
『ちびっ子に言われたく無ェナァ』
 ちょっとムカついた。追い回した。全然追いつけなくてぐったり。
 紫色のドクドクした物ぶつけられた……今度は消し炭にしてやる。
 その翌日は、蒼いのと追い掛けっこ。
 あの変な音……笛の音色であっちへこっちへ。
 思いっきり蹴っ飛ばしたら逃げてった。

 そうそう、おトイレは部屋の隅っこ。
 小さい緑が片付けてった。蒼いのはじーっと、見ていたけれど。
「……俺もやる」
「あら。いいの?」
「命を預かる責任、だろ?」
 その後部屋中水浸しにして、ごしごしして、良い香りのする玉を投げて……。
「ぎゅーっ」
「うわっ、おい、逃げ……ぶわっ」
 自分までごしごしされそうになった。やだやだ。やだやだ。
 狭い部屋でもちょっと飛べる。ちょっと火を吐ける。
 そしたら寝てる間にごしごしされたみたい。良い香りがするけどなんかやだ。

 白い子とは、それなり闘えるようになった。
 紫色のおばあちゃん鳥には闘う前に子供と勘違いされた。蒼いの共々。
 あのトサカとはよく喧嘩する。
 こないだ体当たりしたら、紫のベトベトぶっかけられた。
 次はこんがりにしてやると思ったら、頭がピカッて光って目が眩む。
 ……でも、凄いと思ったからね、からね。
 ちょっとみーせって♪
『ちょ、まって、ヤメテ、オレのアイデンティティー取らないでーっ!!』
 チカチカ沢山見られて、ちょっと満足。
 ……でももの凄く疲れてぐったりしてたらゴシゴシされた。

 そんな日々が続いたある日、あの白いのに似た、けれども二本角の黒い竜に会った。
 綺麗だなと思った彼女は自分を見ると、すっと眼を細めた。
『お手柔らかに』
 もの凄く恐かった。よく解らないけど恐かった。
 でも、あのトサカ鳥蹴っ飛ばした日は美味しいお肉貰えた。
 頑張ろうっと思ったんだけど……。

 蒼いのもろとも、ボコボコにされました。

 自分は空を飛ぼうとした所に体当たりされて落っこちて、オナカに尻尾。
「!!……あ……」
『あら、名前も付けてなかったの?』
 そして黒いのは何か叫ぼうとした蒼いのをチラリと見て、ニヤと笑う。
 それがもの凄く恐かった。
『いけない子ね』
「え……ちょっ……」
 どうやら黒いのは、自分だけじゃ足りないみたい。
 蒼いのと喧嘩したいみたい。
 ひっくり返った自分の顎の近くを尻尾がぶぉん。
「はい、第二ラウンドぉ〜……ふぁいっ!!」
「待ってーっ!!」

 蒼いのは、暫く黒いのの足下で頑張ってたと思う。
 大きな足を避けて、大きな角を避けて、大きな尻尾を避けて。
 小さいけれど、小さいからこそ黒いのと戦えてた。
 もしかしてと思ったその時……黒いのがばさりと飛び上がる。
 風に煽られて、尻餅をついて、踏まれた。
「いっ……あれ……って、おいっ!!」
 どれぐらい、黒いのの足の下でごそごそしてたかな。
 黒いのは、蒼いのに対してちょっと怒ってるみたい。
 このまま、ぷちっといっちゃうんじゃないかと思った。
『……このぐらいで勘弁してあげましょうか』
 でも足をどかした後普通に起き上がって……。
 でも……蒼いのは座り込んだまま動かない。
「あーっ、何っだあの初見殺しはっ!!」
 黒いのが帰った後、すっごく悔しそうなのは解った。

 お父さんに勝ったはずの人が、あっさりと……。
 なんだかその時、自分の中にあった何かがポキリと折れた気がした。
 それをどう表現すればいいのか、その子は知らない。

 コイツをやっつければ出られるかもという望み。
 自分の中の「最強」があっさり塗り代わってしまった事への戸惑い。
 ちっぽけな自分を、知ってしまったのかもしれない。
 強くなるとか、鍛えると言う考えをその子は持っていない。
 努力の価値も、それが報われない事に対する理不尽も知らない。
 だからどれにも気付かなかった。
 気付いていたなら、世界の広さを知って立ち向かっただろうか、諦めただろうか。

 ただ……喧嘩することも、美味しい物を食べることも、急に嬉しく無くなっちゃった。

「あら、今日も全部食べて無い」
 なんとなーく、食べるのがだるい。
 今日はこんがり焼けたお肉だったけど、何だか……。
「ここ数日、ずっとだな……」
 だるい。
「来たばかりの子にはよくある事だけど……元気と思って油断してたかしら」
 蒼いのが肉を切り取ってその子の口に運ぶ。
 ぷいっ。いらない。
 仕方ないので蒼いのが自分でぱっくん。

 蒼いのが首筋を撫でようとしてた……いらない。
 その日、蒼いのはずっとそっぽ向いたその子の側にいた。
 理由なんて解らないから、ずっとそっぽ向いてた。

「ディ君、はいコレ」
「……笛?」
「睡眠笛、いつもは主任が吹いてるんだけどね」

 チラリと横目で見る。
 蒼いのが、不思議な形の角に口を着けて……。
 ああ、あの不思議な音色だ。正直好き勝手されるの嫌なんだけど。
 でも……疲れているときに聞くこの音は、とっても気持ちが良い……。

 この時間が一番幸せ。その子は何一つ気兼ねすることなく貪った。
 怠惰、堕落、充足、空虚、そのどれもをその子は知らなかったから。
 何時だって全力で生きてると言う人もいる。
 思うまま生きていると言う人もいる。
 それはどちらも正解で、どちらも間違い。

 ……目が醒めた。何でかはよく解らない。
 何か、大きな物が近くにいたと思ったんだけど。
 ただ、部屋の中が暗くて、それでまだ夜なのだと解った。
「起こしてしまいましたか」
 並ぶ鉄棒……その向こうにいたのは体が黒くて、頭の白い人。
 暗い部屋でも、その人は本当に白かった。
 あの蒼いのよりはすらっと背が高くて、柔らかそう。
 隣に緑色の、自分と同族の女の子。
 並んで歩いていたけれども、どちらが上かはっきり解った。
 何でだろう、こっちを覗き込むこの白いのが凄く……怖い?
 違うな、何だろう。よく解らないけど……やっぱり解らない。

『ちょっと、何ビビってんのよ失礼ね』

 そこへふて腐れた緑の子。違う違う君じゃない。
 でもせっかくだから、自分と同じように連れてこられたのかと聞いてみた。
 そうよと言われたから、食べられたりしないのかと聞いてみた。
 それはまず無いと言われた。特に悪さをしなければ、だけど。
『て言うかむしろ、言うこと聞いてりゃご飯貰えるし楽よー。普段ゴロゴロしてていいしー』
 ……とりあえず、お嫁さんにはしたくないタイプ。

 白いのは何処行ったんだろうと思ってちょっと首を伸ばす。
 お隣の部屋にいたのは頭にトサカ乗っけた変な鳥。
 ……何か話していた。
 何だったのかは、よく解らない。
 ただ……その日はうとうととして……そのままお休みなさい。
「もしもの時は、頼みましたよ」

 異変は翌朝現れた。

 ……体がだるい。
 頭がぼんやりする。体がふわふわする。
 羽ばたいてるわけでは、決して無い。眠たいわけでは決してない。
 息をすると、喉から変な音がする。
 足に力が入らない。立ててもよろよろ。そのまま土壁にどっしんと。

「ぐるぅー……」
 思う様に息が出来ない。頭が熱い。
 体に力が入らない。こ
『ちょっと、昨日何したのよゲロ竜』
『なんもしてねーよ。つーか俺の方が被害者だってーの……ったくよぉー』
 ドタドタ……ドタドタ……。
 何だか外でドタドタ音がする……確める気にもなれなかった。