ある民俗学者が、こんな事を言った。
 龍の美意識と食欲は繋がっていると。

 伝承やお伽噺の龍が、ねぐらに宝を蓄えているのは良くある話。
 行きずりの英雄に救われる姫君は、何時だって美しい。
 鋼や鉱石を喰らう彼等ならば、不思議はないと。

 そう……例えば、フラヒヤの絶壁にぽっかり空いた穴。
 そこにねぐらを据える漆黒の鋼龍とか。

 メランジェの白を彩る遊色。岩肌に露出した色取り取りの水晶。
 それを名刀もかくやの鋭い爪で丁寧に削り取って、ぱっくん。
 カリコリとそれを囓った後は、平らに整えた就寝スペースにごろり。

 最近のお気に入りは紫水晶。
 夜闇のように深く、暁前のように色付くそれ。
 彼にとってそれは極上の美酒であり、甘美な子守り歌であり。
 それらに五感を揺られ、微睡みに沈むのが至福の時間だった。
 その隙間から、ニュルッとまろび出る、白い物を見るまでは。

 血の匂いを嫌う彼。
 名刀もかくやの爪で、それを一つずつ、丁寧に外につまみんでお外にポイ。

 それらが落とされた先でアイスの材料にされてるのはまた別な話。


   ――――『黒ネコ、頑張る』―――
           Try Again

 温暖期も折り返しを過ぎて昼下がり
 けれど、フラヒヤ山脈の麓ポッケ村は今や寒冷期の始め。
 年間通して村に積もる雪はけれど、湧き出る温泉のお陰で上品な薄化粧。
 基準となるのはドンドルマであるから、まだ雪山の狩猟は許可されているが。

 そんなポッケ村付きのハンターの家に、小さな客がやって来た。
「……ここで、良いハズですよね」
 腰まで真っ直ぐ伸びた黒髪。
 黒いぴっしりした服に赤いチェックのスカート。
 背負ってるハズなのに、引きずってるように見える鋼の大鎚。

 ノックの手は、何処か遠慮がちに。
「えと……リネット=エインさんのお宅はここでよろしいでしょうか〜?」
 僅かなざわめきは感じられるものの、返事はない。
「……リィさんのお宅はここでしょうか〜?」

 にゃっ!
 にゃにゃにゃにゃにゃにゃーっ!!

 次の瞬間、扉の向こうから響き渡るのは慌てふためくネコの声、声、声。
 ……フルネーム認知度の何と低い事か。

 しばしの騒音、ややあって扉が開く。
 出てきたのは、肩で息をする黒猫だった。
「ど、ど、ど、どちら様でしょうかニャ……」
「あの、えと……マイラ=グローリーと言います。リィさんは……」
 聞くまでも無く留守だろう。
 今も奥で慌ただしく動いているネコ達を見れば嫌でも解る。
「き、昨日、クック狩りに行っちゃいましたニャ」
 曰く、竜車と擦れ違いませんでしたかニャと。

「やっぱり、アポ無しは不味かったですかね?」
 仕方が無いのでで宿を探しに行こうとして、くいっと引かれるスカートの裾。
 その手の主は、コック帽を被った気トラネコ。
「いえいえ、嬉しいサプライズですニャ」
 ちょっと不用心かなと思ったけど、チラリと見えた石アレイにピッケル、樽ハンマー。
 他にも武器類はちょこちょこと。案外自衛できたりするのだろうか。
 入って直ぐにリィの生活スペースがあって、キッチン兼食卓は更に奥。
 ベッド脇に並んだ巨大クッションは、何だろう?

 時刻は丁度、お昼時。
 せっかくだからご一緒になんて……街では考えられない事だった。

 勧められるまま入ったキッチン。
 手前の広々としたスペースには木のテーブルに腰掛ける。
 奥には鍋釜その他、作ったばかりのシチューが良い匂いをさせていた。
「すいません態々」
 食卓を囲むのは黄トラ柄のコックさんと、タキシード柄のモフモフネコ。
 後からやって来たのは緑の縮れ毛に、頭に樽の蓋のっけた薄茶色。
「良いですニャ。元々多目に作ってありますのニャ」
「頂きますニャ〜」
 今日のメニューは大皿に盛られた手羽先照り焼きに季節野菜のサラダ。
 雪山草入りクリームシチューにジャンボパン。
 ……ふと、その名前はリィがかつて村付きハンターだった場所に気付く。
 不思議な縁を感じ、何も付けずにかじったパンは美味しかった。

 そして……。
「ふむ……なかなかの美味なり」
 いつのまにか隣に座っていたふとっちょの濃紺ネコさん。
 マイラの手前にあった手羽先に伸びる手。

 ぱしっ

 食われる前に食え。食卓は戦場。
 豊かな狩り場は、常に激戦区。
「いやこのシュー、中々……」
「しまったですーっ!!」
「お口に合って良かったニャ」

 ……そして、獲物が減れば喋る余裕も生まれると言うもの。
 テーブル一杯の料理は、何とか余裕を持つまでに減ってきた。
 各人の取り分を隔てるのがサラダの皿なのは、所詮肉食獣か。

「そういやジミーさんはどうしたニャ?」
「え、あの、もう一人いらしたんですか?」
 と思いつつ、結局美味しくて全部平らげてしまった。
「あ、マイラちゃんは気にしなくて良いニャ」
「どーせアイツは帳簿と睨めっこニャ」
「待ってたら料理が冷めちゃうのニャ」

 山盛りと思った料理、空になるのは速かった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お皿失礼しますニャ」
 それを手早く片付けるのはモフモフ黒猫。
 それも律儀に全員分。
 積み上げたお皿、器用におデコと片手で持ち上げて。
 全体のバランス、ふわふわ尻尾で上手に整え。
「おっととニャ〜」
 空いた片手で支えながら食器棚の前へ。

 そのまま固まって動かない。

「……どうしました?」
 よくよく見ると、長毛で解りにくいがプルプルと。
 重ねたお皿がカタカタと。
「い……一番上のに手が届かないニャ……」

 どっと響く笑い声。
 姿勢の固まったまま「テヘヘなのニャ」と照れる黒猫。
 結局、この中で一番背の高いマイラが手伝う事に。
 それでも、椅子を使わないとてっぺんまで届かなかったそうな。

 さて、お腹が膨れた所で改めて事情の説明。
 順番が何か違う気もする。

 ……と言っても、街で猟奇殺人が起こって、疎開してきたなど言えない。
 それも、身内のナイツが人を狩るところを見られたく無いからなんて。
 愛しの彼まで疎開を促したのは、口には出していないけどそう言う事。

 と、言う訳で……。
「ちょっと度が過ぎたバカ親に、灸を据えてやろうと思いまして」
 全部親父のせいにした。
「ニャハハ。元気なのは良いけど大丈夫ニャ?」
「今頃脱け殻にでもなってると良いのです」

 ――今回ばかりは彼も同罪、その程度で揺らぐ想いではありません。
 ――精々手を焼いてくださいな。

 そんな事を考えながらも、肝心の人が居ないとちょっと暇。
「所で、その……農場ってどんな所何ですか?」
「レベたん案内してやるニャー」
「あいニャっ!」
 しゃきっと背筋を伸ばして敬礼する黒モフ……レベたん。
「て言うかオイラもお仕事あるのニャ」
「ボクはお昼寝ニャ〜」
 随伴するのは緑の縮れ毛、テムジン君。
 丸まったらブロッコリィかもと思ったのは内緒。
 バレルは……恐らくはリィのベッドに潜り込んでお昼寝の構え。

 家を出て、目の前の滑車が回る坂の下。
 農場に入って最初に目を引くのは切り立った岩壁。
 手前には小さな掘っ立て小屋。
 中央付近と、奥の途切れた所にぽっかり開いた穴。

 見渡す限り広かったけれども……。
「耕作地は小さいですね」
 地面の大部分はまだ荒れ地で、その一部分を占める緑はどうやらツタの葉。
 頑強な生命力に任せて茂るそれは、とても整えられたとは言い難く。
「アレはご主人のリクエストだニャ。罠作るのに居るらしいニャ」
「なるほど、ネット用ですか」
 向こうに見える茂みには蜘蛛が居るのでご注意。

 畑で野菜などを育てるには、まだ少し設備を整えたいそうな。
 他に目についたのと言えば小さな巣箱。
 本当は遠心分離機付きのがあったと言う。
 けれどもコレ、リィがここに来て最初の功績だとか。

「さてさてコウセキと言えばだニャ」
 と、自信ありげに前に出るのは緑の縮れ毛、テムジン君。
 彼に案内されたのは切り立った岩壁、その真ん中に開いた大きな穴。
「鉱山ですか?」
「ニャホホホホホ。タダの鉱山じゃないのニャ」
 と、穴の横に置かれていた荷物をガサゴソガサゴソ。
 取り出したりますは大タル爆弾、よっこらさっと持ち上げて。

「ポッケ村名物、爆弾採掘ニャ〜!」
 ちなみに、元祖はかの有名なココット村である。

 わー。
 パチパチ〜。

 と、乾いた拍手を背に受け、テムジンはヒョコヒョコ穴へ。
「耳塞ぐニャ」
「あ、はい」
 黒ネコに促されてから思う。
 はて、この手の注意喚起はテムジンの仕事では無かろうか?
 訪ねようとして、手を緩めたその時だった。

 ちゅっどどどどどごぉーん!!

「ほわあああああああっ!?」
 轟く爆音、吹き荒れる爆風。
 それらに翻弄されて尻餅をつく騎士の娘。
 その目の前に、ぽてっと落ちる緑のもじゃもじゃ。
「テ、テムさんっ!?」
 潰れブロッコリーに駆け寄るマイラ。
 全身焦げ焦げ、力無く持ち上げられた手には、キラリ輝く水晶が。
「き、今日は上物が出た……ニャ」

 ガクッ

「テムさーんっ!?」
「あーそれ、五分もすれば復活するニャ」
 テムジン君、自爆癖持ちの爆弾ネコさん。
 ちなみに、リィは一週間で更正を諦めたそうな。

「とりあえずジミーさん何処かニャ」
 まだまだ心配だったけどレベたん曰く、コゲたブロッコリーは放置に限る。
 いいのかなぁと思いつつ、促されたのは農場の奥。
 ぽっかり口を開けた氷の洞窟。

 とても寒くて入れないようなその入り口で、ノートと睨めっこする一人の男。
「ジミーさん、お客様連れて来ましたのニャ」
 上げた顔は良くも悪くも普通。
 白髪混じりだけど、お父さんよりちょっと若い印象。
「おや、可愛らしいお客さんだ」
「あの、リィさん訪ねて来たそうなのニャけど……泊めても良いかニャ?」
「良いも何も、今の家主は彼女だろ。私が断る理由は無……」
 そう言いかけたジミーさんの体がグラリと揺れて……。

 ドサッ

「ニャアアアアッ!?」
「し、しっかり……凄い熱です!!」
 揺り起こそうとした体は触れるだけで熱りが解る。
「と、とにかく家に運ぶニャーッ!!」
 最低限とはいえ武装しているジミーを、レベたん軽々持ち上げる。
 マイラが手を貸すよりも早く駆け出すレベたん。
 重さを全く感じさせないその子はけれど……。

 ゴチゴチガッツンゴンゴン、ガンッ

「今、頭打ったです……」
 少々背丈が足りなかった。

 何はともあれ、ジミーさんを運び込んだのはリィの家。
 ちなみにこの人、元家主。
「だから、私らの小屋はやめとけって言ったのにニャア」
「いや……しかし……年頃のお嬢さんの家にだな……」
 この生真面目さが、なんとなーくお父さんに似ている気がする。
「そのお嬢さんがOK出してたのにニャア」
 ベッド脇の巨大クッション、ネコ達の寝床だそうな。
 人間、竜人、獣人の三種平等が叫ばれて久しい昨今にあれと思うが……。
「毛モノと同じ環境では……ねぇ?」
「ボクだって毛が無いと寒いにゃ」
「んだニャア」
 しかも本来、みんなで丸まって寝るのが前提の部屋に毛布だけ持ち込んだとなれば……。
 風邪で済んでむしろ幸運。

 しかしジミーさんも言われ放題ではなかった。
 曰く、クリスタルが経済観念を身につけて、テムジンがピッケルの使い方を覚えて、バレルが仕事するようになると大分楽になるんだとか。
 少なくとも、リィのオトモとジミーの補佐を兼ねるダインが倒れる事は無くなると。

 所詮はネコかと思っていたその時、ボソリと黒猫呟いた。

「……ボクは?」
 水を打ったように静まりかえる部屋。
 誰も黒ネコの問いに答えない。答えられない。
 今来たばかりのマイラとなれば尚更。
「ボクは……ボクは……」
 黒ネコの、つぶらな瞳がウルウル潤み……。

「ダメネコニャアアア〜ッ!!」

 泣きながら家を飛び出してしまった。
 そして部屋に満ちるは悲痛な沈黙。

 マイラは悩む。
 来客の身として、一体どう振る舞えばいいのだろうか。
 ただ立ち尽くす少女の裾をクイクイ引っ張る小さな手。
 見下ろせば、コックネコのクリスタル。
「あの……いきなりで申し訳無いけど、お願いがありますのニャ」
「はい……?」

 こう言う時黒ネコ、ことレベたんが何処に居るかは皆熟知していた。
 聞けば、以前に山で怖い目に遭って以来ずっとこの調子だと言う。
 何が恐かったかは……救助したふとっちょも何も話さない。

「でもニャ、やれば出来る子のはずなのニャ」
 ご飯の時軽々持ち上げていたお皿。
 ハンマー使いのマイラが持ってもまだ重かった。
 けれども、オトモは既にダインがいるからと……。

「このままだと、集会所のむさいハンターにモフられて青春終わるニャ」
「そろそろジミーさんの加齢臭が移るニャ」
「……ちょっと、待て……」
 病人の訴えはスルーされた。

 けれども、マイラに決心させたのはまた別の物。
 聞けば、本人バカだ何だと言いつつ父親のようになりたかったと言う。
 本当なら、野山を駆け抜ける事を夢見ていたという。
 それが一見暢気に雑務をこなす裏で、何を思っていただろうか。

 強くなりたい。高い頂。大きな壁。
 他人事とは思えなかった。

 ポッケ村の雪道を行く事数分。
 たどり着いたのは大きな建物、ハンターの集まる集会所。
 けれども、マイラが足を運んだのはその裏手……。

「ニャー……」
 言われた通りレベたんは建物の裏手、岩と木の壁との間にすっぽりと。
 こちらを向いたお尻が毛玉のよう。
 思わず抱き締めたくなるのを、ぐっと我慢。

「クリスタルさんから、雪山草採取の依頼を受けました」
 毛玉から、耳だけひょこり。
「ですが私、雪山は初めてなのです」
 顔だけクルリとこっち向く。
「案内役が欲しいのですが、お願いできませんか?」
「ボクで……いいのニャ?」
 うるんだ瞳が、ぱちくりと。
 やれば出来る子と言うより、褒めれば頑張る子。

「あなたは、雪山ネコさんなのでしょう?」
「……あいニャ!!」
 シャキッと伸びる背筋。
 ゆらゆら揺れるフワフワ尻尾……。

「ありがとうございますーっ!!」
 もう辛抱たまらんっとばかり、ハグするのを誰が咎められよう。
 首回りのモフモフに顔を埋める事数分、雪山の村にあって何という至福か。
(ボク、まだやるって言って無いんだけどニャア……)
 返事はお察しの通りなので結果オーライだが。

 何はともあれ、そうと決まれば早速準備。
 ベッドを壇上がわりにえっへんレベたん。
 その下で正座のマイラたん。
 ちなみにレベたんの後ろでジミーさんが寝ている。
 尻尾が顔に掛かっている。
 心なしか幸せそうだ。

「まず、雪山で大切なのは防寒対策ニャッ!!」
 そして、おだてられたとたんに調子に乗るのはネコの性か。
「スパッツと厚手のストッキング完備です!!」
 対する娘もノリノリだが。
「薄手のセクシーラインで愛しの彼にアピールしたいのをぐっと我慢です!!」
「その心意気ニャ良しっ。しかしっ、心意気でしのげる程甘い世界じゃ無いのニャ!!」
 相乗効果で黒ネコヒートアップ。
「ホットドリンクなら調合分まで完備です!!」
「よろしい。次は雪山の歩き方ニャ!!」
「はい先生!!」

 その様子をキッチンから見守る三つの影。
 クリスタル、バレル、太っちょの三匹。
 テムジンはまだ爆弾採掘から回復中。
「大丈夫かニャア……?」
「ま、何とかなるんでニャいかい?」
「ハンター二人。オトモ二人……もぐもぐ。丁度良いですニャ」
 踏まれているジミーさんが幸せそうなのは、きっと気のせい。

「えい、えい、おーっ!!」
「ニャーッ!!」

 と……出発前に挨拶しないといけない場所が。
 村の奥、集会所の近く、大きなマカライト鉱石のお膝元。
 村の狩猟一切を取り仕切る尊重とネコートさんの所。
「ほうほうそうかい。良いよ、行っといで」
「許可が降りなかったらどうするつもりであったか」
 今後も暫く、村長さん経由で依頼を受けて良いとの事……。
 深々と頭を下げて、いざゆかん。

 村の外へ続く道、冷たくも心地よい風の服草原。
 その先の岩壁と森に包まれるような場所にキャンプはあった。
「坂が急だから気を付け……るニャアアア〜ッ!?」
 黒ネコ、転がり落ちるのはお約束。
 ちょっぴり不安だけど、平気かな?

 最初に出迎えた湖畔の清涼な空気。
 蒼く輝く鉱石に埋められた洞窟。
 レベたんは思う。
 感動するポイントは一緒だニャアと。

 だから思い出してしまった。
 だから洞窟の出口でレベたん、肉球模した棒構え、右へ左へ安全確認。

「よし、アイツはいないニャね?」
「アイツ……ですか?」
「無っ茶苦茶狂暴な奴が出るのニャ」
「そういう事は先に言ってくださいよー!!」
「大丈夫ニャ! さっさと逃げれば……多分」
「多分って何ですか多分ってーっ!!」

 前途多難と思いつつ、洞窟抜ければ銀世界。
 そこに紛れるように並ぶ白トカゲが一、二、三匹。
「おお、白ランポスさん!!」
 初めて目にする生き物に目を輝かせるマイラに……。
「ギアノスって、言うのニャけど……」
 ツッコミつつもマイラの後ろに隠れるレベたん。

「このぐらいなら大丈夫ですよ」
 ハンマー抱えて踊りかかるマイラに。
 スカートの裾掴もうとしてずっこけるレベたん。
 そんな彼の視界には、鉄塊振るってギアノスの頭を砕く少女が一人。

 雪に埋まる鉄塊、そこを狙う爪は体だけ捻って紙一重。
 そのまま鉄塊振るってもう一匹と一緒に、ハイさようなら。

 あっと言う間の出来事だった。
 さてさてと、雪山草を探し始めるマイラを見ながら考える。
 あんな小さな女の子(体は自分より大きいが)でも戦えるのにと。

(やっぱり、ボクはダメネコニャ……)
 どんよりと落ち込むレベたん気付かない。

 暗い影を落とすレベたんのその真上。
 白い影が、バサリバサリと舞い降りてきた事に……。

 白いぶよぶよの体から伸びる首、その先から、白い吐息が漏れてた事に。

「レベたん!!」
 マイラが叫んで駆けだしてくるまで、気付かなかった。