――どうして「彼女」に名付け親を?

 ……ちょうど、一週間ほど前。
 それはディが初めて人を殺めた翌日の事。
 その店の女店長に「彼女」の言づてを伝えた時に聞いてみた事。

 今にも死んでしまいそうな顔をしていたから。
 ふっ……と消えてしまいそうな顔をしていたからだと。

 ――何て言うか、達観しきった顔をしてたのよ。諦めきった顔。

 先々月の古龍襲撃の時、「彼女」は我が身を省みず飛び出そうとした。
 店長の夫の物だった双剣を引っ張り出して。
 ……そう話した所で従業員から、突撃しようとしたのは店長の方と茶々が入る。
 結局はその双剣を「彼女」が取り上げて飛び出そうとして小麦粉袋をぶつけられたとか。
 幸い、「彼女」が飛び出した頃には、騒ぎは収束に向かいつつあったのだけれど。

 その後は命を粗末にするなとか、自分だって戦えたのにとか、てんやわんやだったらしい。
 ただ、その日から達観しきった顔に少しばかり色が付いてきた。
 ほんの少し、浮ついてきたと言っても良いかもしれない。
 だから、だめ押しとばかりに押しつけたのだという。

 ――この子の為に、貴方も胸を張って生きなさいってね。
 ――それ、結構ずるいですね。

 そして言われた。
 「彼女」の伝言を伝えた事で、ディがそれを引き継いだのだと。


   ――――『その日はささやかにして』―――
            お昼は家族と

 何も飛竜を狩るだけがハンターの仕事ではない。
 例えば……。

 依頼内容:飛竜の卵を獲ってきて。
 依頼主:喫茶コケットリー店主、オリヴィエ=ヴァレリア
 メインターゲット:飛竜の卵二個その他
 生息モンスター:イャンクック
 備考:詳細は喫茶コケットリーまで。

 入手に危険が伴う物を獲ってくるのも、ハンターのお仕事である。

 と言うわけで依頼書を受けた姉弟、とんぼ返りでまず装備。
 ただし、姉の装備は既にポッケ村に送ってしまったため来た時と同じ雌火竜の鎧に砂竜の籠手
 ディは無難にレザーライトシリーズ。頭はいつものメルホアフロール。
 鉄の胸当てとなめし革の腰コートにグローブ、防具としては心許ないが採集となれば話は別。
 武器は双剣と弓、いつもの通り。

 到着後に通されたのは喫茶コケットリーの裏。
 広くはあるが隣の建物の壁が目の前だから、朝の光も届かない。
「あの……これだったらここに来ないで直接狩り場に出向いても……」
「だってこうでもしないと君は来てくれないでしょー」
 店側のベンチで待っていたのは、明らかに臨月と解る大きなお腹の婦人……コケットリーの店長。
 頭に巻いた三角巾を解くと、短いオレンジの髪がはらりと散った。

「あの、ひょっとしてそのお腹で、仕事を……?」
「まさか。筋の良い子がいるからみっちり指導していた所」
 ……無理があると思ったが、そこはあえて突っ込まない。

 ジャッシュもマイラも、この婦人とディを繋ぐ人物の顛末を知っている。
 ……知らないのは姉一人。
 ザザミSヘルムのバイザー越しに送る視線に、なにやら嫌な物を感じてみれば……。
「そうか。おまいさんは年上好みだったか」
「へ……?」
 そこで店長がわざとらしく「ぽっ」とか言って両手を頬に当てて見たり。
 その後で愛おしげに大きなお腹を撫でてみたり。
「ちょっ、まっ、違う違う違う違う!!」

 あらぬ疑いは何処まで本気か。

「しかも一週間も会わずにほったらかしとは」
「寂しかったわーここ一週間」
「よよよ。お姉ちゃんは哀しいよ」
「だーかーらーっ!!」

 挨拶代わりとばかり、一分ほどイヂられた。
 事情を説明したくても、こんな流れでとてもじゃないが話せない。
 けれど少なくとも、店長は確信犯。
 ジャッシュとマイラの視線が痛い。

「のほほほ。おまいさんが、孕ませた相手を一週間も放置プレイはあり得ん事ぐらい解っとるわい」
「うふふ。そこまで真っ赤にならなくってもいいのにねえ」
 ディフィーグ=エイン十八歳。年上の女性は、正直苦手。
 かといって……。
「いっそ既成事実作った方がいいですかね?」
 年下にもこう言うのがいたりするから困る。
 それにゲンコツをくれるジャッシュが唯一の良心か。

「うふふ。ご挨拶が遅れました。私はオリヴィエ=ヴァレリア。この店の店長です」
「んー……こほん。んじゃ改めまして。私はリネット=エイン。このディフィーグ=エインの姉です」
「ジャッシュ=グローリー。マイラの父です」
「あら随分……若いお父さんね」
 さしもの彼女も、強面+メルホアの組み合わせには、引いたらしい。
「あ、いえ、養父です」
「……先輩、褒められてないと思うぞ」

「さて、今回の依頼は出産に備えての栄養の確保。だから、飛竜の卵以外にも色々獲って来て欲しいの」
 そう言って渡されたメモにはハチミツ、アオキノコ、ケルピーナッツ、大砲どんぐり等。
「このメモにあるのもこちらで買い取らせて貰うわ。ギルドには話を通してあるから。さて、他に……」
「ほいほいほーい」
 リィ、言葉が終わるより先に挙手。
「何かしら?」
「お腹、触ってみてもいいかのう」
「いいわよ」
 そこで「はい、どーぞ」と言わんばかりに付き出すのもどうかと思うが。
 けれども、促されるまま四者四様に大きなお腹に手をふれていく。

「しかし大きいのう。大変じゃないかい?」
「うふふ。若い頃散々運んだメロンに比べれば、どうって事無いわ」
 重みの桁は違うけどね、と付け加えて……。

 ……温暖期の太陽が真上に登る頃。
 木々の間をカタコト行くのは幌付き竜車。
 ハンター四人、向かう先は近くの密林。
 各々背中に武器を。膝の上にはアイスのカップ。
 御者のオレンジネコ、時々うらやましげにこっちを覗く。

「オーちゃんもアイスいるかい?」
「いるニャ」
「あれ、姉貴もコイツ知ってるの?」
「んー。ちょっとの。名前が長いから覚えてた」

 このアイス、リィは今朝食べたはずだが、二度目もやっぱりご満悦。
「んー……うまうま。しっかし逞しい妊婦さんもいたもんだのう」
「こないだ来た時もあのお腹で歩き回ってました……」
 横で捕捉するマイラも同様。養父のジャッシュは、一口ごとにもぐもぐと。
「おかんなんて、車椅子くれってせがんでたのに」
「そうなんですか?」
「うん。おかんがへばるなんてのは、多分アレが最初で最後」
 ジャッシュ同様アイスで口の塞がってるディは思う。
 姉貴、自分の時があるだろと。それ以前に、二歳ちょいで覚えてる物なのかと。

「そう言えば、繁殖期はまだ先ですけど卵ってありますかね」
「クックたんは鳥竜種だからの。無精卵が結構あったりするんよ」

 さて、狩り場は街の近くに広がる森。
 ベースキャンプは、少しばかり開けた場所に作られていた。
 樹木と岩壁で出来た天然のホールは日差しも和らぎ良い具合。
「じゃ、終わったら狼煙を上げてニャ〜」
 入り口は竜車が丁度、飛竜はちと無理、そんなとこ。

 青いアイテムボックスから真っ先に地図を取り出して顔をしかめるのはディ。
「あー……やっぱ何か一匹いるわ」
 手にした地図で言えば、巣があると思しき岩場から離れた水辺。
 彼の第六感とでもも言うべき感覚は、そこに佇む飛竜の気配を捉えている。
 もう少しばかり意識を集中させれば、地面をついばむ影も朧気ながら見えて来た。
 ……装備無しで、これほど遠くの気配を捉えられるようになったのは何時からか。

「クック先生ですかね」
「天敵もいないしこの陽気だからな……」
「そーいやジャンボ村最後の仕事もクックマラソンだったよ。今年は多いのかい?」
 周辺警戒するディを余所に、マイラはいかにも重そうな鉄のハンマーぶんぶん素振り。
 生まれて初めて自分で集めた素材で作った武器。
 試してみたくてしょうがない所に、リィが一言。

「それとマイラたんや。成長期前に無理な筋トレすると背が伸びんぞ」

 ピタリと止まるハンマー。
 ピタリと止まる空気。
 そしてディに集まる視線。

「うん。これ実例」
「なるほど」
「ちょっとマテ……」
 十歳からハンター始めて早八年。
 医者だった父の監修があったとしても仕方がない。

「ノミの夫婦上等です」
「誰がノミだぁーっ!?」
 マイラはハンマーの素振り再開。

「第一っ、ノミの夫婦ってのは旦那がチビの場合!!」
「む。認めたか」
「うるせえええええええーっ!!」
 愛しの彼が涙目だけど気にしない。

「私がドンドルマを離れて早三年……ここまで浮き名を流してるとは思わなかったぞ弟よ」
「ちーがーうーかーらーっ!!」

 ……そんなこんなで、クエスト開始

 木々の茂る森の小道。
 ほどよい日差しの差し込むそこに、一カ所だけ暗い影。

「あー、コンチクショウ……もうクックでもガルルガでも出て来やがれってんだ」
 ……散々いぢられて、げっそりしているディの物。
 とてものどかな森なのに、ここだけ何か出そうな空気。
「ふほほほほ。慣れろと言って慣れられたら苦労は無いかい?」
 後ろを行く姉はといえば、素知らぬ顔で茂みを物色。

 二人に割り振られたのは採集係。
  久々に、と言うより実は初めて一緒に狩りに出るのだからと言うジャッシュの計らい。
 本音としては、娘の発言に危機感を覚えたと言う所か。

 ディも時折参加はするが、はっきり言ってやる気無し。
 それでも、装備のもたらすスキルのお陰で採集だけなら至って順調。
 腰のポーチ一杯に詰め込まれてるのはハチミツ、不死虫、エトセトラ。
「ったくよぉー……俺にロリコンの気は……」

 どげしっ。

 後ろから姉に蹴倒された。
 その拍子に茂みの奥、良い具合に光が差し込む広場へすってんころりん。
「一体何しやが……ぶもっ」
 抗議しようと振り向いたら、今度はアイテムポーチを顔面にぎゅう。
「アホタレー。十三つったら立派なレディだよ」
「……もぐー……」
「半端な態度は返って酷でないかーい?」

 丁度良いから、一休み。
 開けた広場、姉に投げ込まれた先で小さな白い花がさらさら揺れる。
 ふて腐れたままの弟。その前にぽふっと座り込む姉、鎧がちょっと邪魔。

「んでまあ、真面目な話。そういう相手はおらんのかい?」
「……いるように見えるか?」
「ほほーう?」
 ずずいってこっちを覗き込む姉。
 場所が場所なだけにカップルのようだが生憎姉弟。
 あわや押し倒されると言うほど近づいた辺りで、ふと姉の顔つきが変わる。
「……そうかい。いや、なんつーか……」
 至極真面目な顔に。ネコのそれを思わせる紫の瞳をぱちくりさせて一言。

「男の顔付きになったような気がしての」

「……!」
 全身が、こわばった。
 一番知られたくない事を見透かされてた気がして。
 今ので、完全にバレたとは思うけど。
「……ふむ。悪い事聞いたね」
 そう言って引いた姉の顔も、大人のそれになっていたと思う。
 本当に、何もかも見透かしたような顔をすると思う。

「それとも、後悔してたりするかい?」
「……は、何を今更」
 そう答えるしかなかった。
 既に、引き返せない所まで踏み込んでしまった道だから。
「そうかい……」

 そろそろ行こうかと言うより先に、かさこそと茂みをかき分けケルビが一匹。
 耳の垂れたお嬢さん、姉弟に見向きせずに草を食む。
「時に弟や」
「何?」
「狩りの獲物が時々旨そうに見える事は無いかえ?」
「グラビの尻尾断面とか?」
「レウスの尻尾とかのぅ」
 ……それはちょっと自粛中。

「レバーてさ、新鮮な奴は美味しいよの……」
「剥ぎたての焼いた時はちょっと衝撃だったな……」
「さっと揚げて外はパリパリ、中はとろっと……」
「……栄養面でも優秀だよな、ホワイトレバー」
「肉焼きセットなら持って来たよ」
 耳の垂れたお嬢さん、不穏な空気に気付いた時には遅かった。

 生肉を入手しました。
 ケルビの角を入手しました。
 ホワイトレバーを入手しました。
 ホワイトレバーを入手しました。

「おまいさん、やるの」
「姉貴こそ」
 綺麗に肉から皮から剥ぎ取られたケルビを前に、ニヤリと笑う姉弟。
 医者の子には恥じないようとばかり最初に覚えたのが、この解体術。
 残ったお肉も綺麗に剥いで肉焼きセットで軽く炙って、いただきます。

 そうして腹ごしらえを済ませ、姉弟が進むのは森の奥。
 地図にお勧め採集ポイントと書き記された場所。
 そして……今尚飛竜と思しき気配が陣取って動かない場所。

 木々の鬱蒼は相変わらず。
 それらに絡まるツタの密度が上がって行く。
 徐々にに日の光が遮られ、道が狭まり、いつの間にやら木が岩壁に変わった頃。
 足下を小さな川がせせらぐ頃、先に光が見えた。

 けれど、彼らはその奥に進むことは許されない。
 岩場を流れるせせらぎが日の光を返すそこに、既に先客がいたから。
「クェー……」

 姉弟二人で覗き込んだ先。
 ツタと木のホールの片隅、こんこんと沸く小川の源流の側。
 小さな小さな、弱々しいイャンクックが一頭蹲っていた。

 どれほど小さいかといえば、大の大人の倍程度、この広場の半分という所。
 どれほど弱々しいかと言えば、ボロボロの耳も翼も、だらりと垂れ下がっているほど。

 せせらぎぐ小川の畔で、しきりに足下をついばんでいた。
 翼の影で見えにくかったが、よくよく見ると……。
「ツタが絡まってんな」
「蜘蛛の巣も絡まっちゃってまー。運の無いクックたんだの」
 それが絡まって、まかりなりとも飛竜と呼ばれるその子の自由を奪う。
 ネットの材料にツタの葉と蜘蛛の巣を使うようになったのは、小さな偶然が最初だったとか。
「……アレも、立派な調合よの?」
「うるせ」

 とはいえ、先に進みたいだけならこれ幸い。
「ま、いいか」
 と、姉が素通りしようと広場に足を踏み入れて……。
「グェーッ!!」

 じゅっ

「ぶぁっつぅーっ!!」
 クックがペッと吐き出した火炎液、ガンナー用の大きな左籠手で切磋に庇う。
 その威力が、吐き出した当人(鳥?)の状態さながらに弱々しい事も幸いだった。
 もし元気な奴のを喰らった日には……。
「……ブロッコ、リィ」
「まだ言うかい」
 手近なツタで締め上げられた。

 それはともかく、このクック。やる気である。
「グ……グェッ……」
 立ち上がって、必死に威嚇しようとして、だから見えてしまった。
 ネットをちぎろうと奮戦して、もとろも抉ってしまった足の傷。
 小川のせせらぎに洗い流されて、肉の色がよく見えた。

 ハンターであるなら、目の前の障害は狩って取り払うべきであろう。
 幸い、クックは足を取られてこの広場から出られない。
 姉は弓師で、ディのポーチの中にも万一とジャッシュに教わっていた投げナイフがある。
 けれど……。
「……あれ、ほっといたら死ぬよな」
 その「対飛竜用でない」ナイフでも十分に狩り取れてしまいそうなほど。
 姉を横目で見てみれば、矢筒を弄ぶばかりで弓を出さない。

 小さいといえど、立派な飛竜。
 人里に降りれば被害は甚大、今年はクック祭りでこのまま逃がしても狩られるやも。
 単純に考えても、運搬中だろうジャッシュとマイラの事を考えれば、大きな障害が一つ増える事になる。
 それでも……。

「……矛盾かな」
「さっきケルビのお嬢さんを狩ってきたばかりなのにの」
 ここで命一つ見捨てたら、胸を張って帰れなくなると思ったのだ。

 一方その頃……。

「むすー」
 マイラは退屈していた。
 森はすぐに途切れて大平原。道すがらの採集は順調。
 飛竜の巣と思しき洞窟には確かに卵があった。
 何もかもが順調だった。
 ……自分の腕が、卵を抱えるには少々短かった事を除いて。

 ならば父の護衛とばかり雑魚をけちらそうと思ったのだが……。
「どけどけどけどけーいっ!!」
 ジャッシュ=グローリー三十三歳。別名恐怖の運搬やもめ。
 あの強面にメルホアシリーズは、いろんな意味で犯罪と思う。
 ……いっそ彼が着れば良かったのにとか。

 ランポス程度屁でもなく、ファンゴだってひらりと避ける。
 真正面に出てきたランゴスタは哀れショルダータックルの餌食になった。

 ひょっとして、普通に戦うより強いじゃなかろうかと思いながら父の後をトコトコと。
 キャンプの納品ボックスにたどり着くまで、愚痴は我慢。
 なので……。

「お父さん、暇です」
 たどり着いたら開口一番。
 暫し考え、ハの字眉なる強面にちょっと罪悪感。

「ふむ……確かにそうだな」
 父も悩む。
 確かにあの程度なら一人で問題ないが、娘を一人にするのもいかがな物か。
 ディの千里眼が捉えていた飛竜が、娘の手におえるとも限らない。
 悩み悩んで父が出した結論は……。

「卵もあと一個だ。ディ達の方に行くか?」
 バカ親父、ちょっと大人。
 けれど、喜ぶと思った娘は少しばかりむむーと悩む。
 悩み悩んで……。

「リィさんと、ゆっくりさせてあげましょう」
 娘も、今日はちょっと大人。ちょっと背伸び。
 自分は、いつでも会えるもの。

 けれども、それ故はちょっと気になる事も道すがら。
「リィさんは、どうしてディ君と一緒に居たがらないのでしょう?」

 道すがらに聞いた。
 ジャンボ村は辞めてきた。今度はポッケ村にいくのだと。
 どうしてだろう。今や二人きりの家族なのに。
「居たがらないわけでは、無いと思うぞ?」
 銀爺の時に入れ違いの事をずっと残念がっていたと言えば、彼に蹴倒されたアレですねと返すこの父娘。
「辞めた理由も、聞いただろう?」
「はい。でも……」

 お互いが独り立ちできないから。
 だけど、ラウルの家の前で聞いてしまった。
 彼の家は、二人で暮らすための物だったと。
「彼は、一緒にいたいと思います」
「リィは、守られる側に甘んじたくないのだろうな」
 ギルドナイツと上位一歩手前。
 力の開きは大きい。
「……対等でありたい、と言う事ですか?」
 その気持は、よく解る。
 今まで守ってきたなら尚更だろう。
「互いの自立を願う。そんな家族もあるという事だ」

 娘はそんな事を言う父を一瞥して……。
「フッ……」
 ちょっと暗い笑みを返してみる。

 何はともあれ、残る卵は後一個。
 ゆっくり採集して回ってからにした。

 ポーチ一杯に捕獲セットとか詰め込んだのを、ちょっと後悔しながら。