※泣く泣くボツにしたいわゆるNG集
 しつこいぐらいに語りまくっております。

【実はまだ一ヶ月しか編】
「一体、いつからこんな……」
「飛竜に乗って飛ぶあなたを視たわ」
 だとしたら、一ヶ月弱? あの騒ぎの中で不味いのに見つかった?
 目の前に、自虐的な笑みが浮かんだ。四年前と微かに重なった。
 もう二度と、誰であっても見たくないと思っていた色。
「あの時、食べられてしまっていれば良かったのかしら?」
 ※私が。

【慰め?編】
「筆頭……あのまま、何事も無かったらどうなっていたでしょうか……」
「そんな事を聞いてどうする?」
 解っている。知ってもどうにもならない。
 ただ、失われた者を思い知るだけ。
「信じたいんです……アイツは生きたかったと。諦めていなかったと」
 自分の、彼女の、その足掻きまで無為なモノだったなんて思いたくなかった。
 例えそれで、亡くしたモノを突きつけられる事になっても……。
「死者を裁く法は無い」
※帰還直後と筆頭退出のシーンが削られ泣く泣くカット。

【魔王と愉快な72柱編】
 ヴァリスのレポートから、その素性の目星はおおかた付いた。
「ところでヴァリス」
「なぁーに?」
「さっきセーレが泣きながらブエルの部屋に駆け込んで行ったわけだが」
「……ちょっぴりやり過ぎちゃった。テヘッ」
「……」
 そのうちカウンセラーが患者に鳴らないかという不安はおいておこう。
※ナイツのちょい役は基本72柱から。希に出世する奴がいる。
ヴァリス=ヴォラク=人を散々幸せにしてから突き落とすのが至上の喜びらしい。
 ちなみに紅白まんじゅうのフルフル二匹。名前は「マル」と「ハル」。
マルファス&ハルファス=戦争を手伝う悪魔。ワンセットで泥沼にする事が多いらしい。
セーレ=主人に忠実。言えば何でも持ってきてくれるらしい。ちなみに我が家では白ぬこ。
ブエル=治癒の力を持つ悪魔。精神面におけるそれが主とか。

【塔の上の魔王と姫君編】
「どうかし……ぶもっ!?」
 筆頭が足でドアを閉めた。結果は言うまでも無く。
「何でまたナイツ筆頭が……」
「3Pの方がお好みだったかな?」
※問題発言が過ぎてボツ。
 いくらかつての思い人に似てても犯罪です。

【祈りの次は懺悔編】
「自分なら大丈夫と思ったか?」
 薄ら笑み。背筋に嫌なものを感じた。
「むしろ自分がやらねばと思ったか?」
 拳を掴む力がふっと緩む。
「……ナイツ筆頭が聞いて呆れる」
※ただし、Dy君は懺悔を聞く側。

【肥満体の悪あがき編】
「アイツか、エイン医師の子か?」
 ……切り捨てたいのをぐっと我慢。後衛二人、とまどっているのか動かない。
 とりあえず寄られると気色悪いから剣を突きつけて距離を取る。
「あ、あの男はな、出世にお前の両親を利……」
「知ってるよ」
 嘘。はったり。
 でも、母さんの無茶が糾弾されなかったのはその辺りかな?
「恩人じゃん」
※狂気を加速させる正義。テンポの関係で泣く泣くボツ。

【下世話さん編】
「あの娘が守ろうとした者は全て無事だ。ただ一つだけ」
 ……俺が、助けてやらなきゃいけなかったんだ。
「ディフィーグ」
「……何?」
「お前、今の自分が無事と思うか?」
「そんなに俺らをくっつけたいか……?」
「あの傷で、あんな安らいだ顔をしていればな」
 それは、もの凄くずるい……。
※安らぐ間があったかどうか。そして今の彼を無事と言えるのか。

【どうせボツならがっつり描いてやるぜ編】
 SpecialThanks−ななな様

 とある貴族の私室。
 大きな窓から差し込むのは大気との屈折の末たどり着いたいくばくかの月明かり。
 光源は窓の反対側、いまだ分厚い雲の向こうだ。

 上質な素材がふんだんに使われた家具。
 部屋の主が狩に携わる者である事を示すアイテムボックス。
 豪華でありながらあくまで上品に纏まった部屋。
 椅子に腰掛けるのは黒をベースにフリルで彩られた「等身大の人形」。

「うう……しくしく……」
 そして、雪獅子の毛と髭を編み込んだ上質な毛布のかかったベッド。
 クックファーをふんだんに詰め込んだ枕に敷き布団。
 そこで啜り泣く栗毛の青年はアル。アルト=レゾナンス君23歳、ナイツに入って早四年。
 童顔の先輩ナイトが付けた渾名はナイトA。
 このとろけるような寝心地のベッドで何故啜り泣いているのかといえば。
「ぐぉ〜……」
 相方のナイトBと同衾。そんな趣味で無いのは言うまでも無い。

 横で寝ている黒髪はナイトB、もといバリー。本名バリトン=レゾナンス。やはり23歳。
 ちなみに間違われやすいが兄弟でなく、従兄弟。
 彼はその寝心地の良さにやられて高いびき……まるで一夏の想い出である。
 ちなみに服は着ている。着ているどころか完全武装。
 これは立派な任務である。
互いの得物はクックファーにすっぽりと。

 仮眠から叩き起こされて見上げる空を横切ったのは「あの」新入りの蒼火竜。
 何事かと持ち場に戻ってみれば気絶した男女を肩に担ぐ筆頭。
 後ろにいるのは銀青と赤虎。その後街を一通り見回るよう言われた。
 寝直すには遅く、不思議と睡魔がやってこないためにそのまま夜明けを迎えてしまった。
 夕暮れ時にやってきたのは黒いドレスの筆頭副官。

 期待など微塵もしていなかった。むしろ怖い。
 無表情の、むしろ極めて精巧なドレスの人形が迫ると言えばその恐怖が解るだろうか。
 微かな殺気のおまけ付きで。

 相棒共々小便も神様にお祈りも済ませていない。
 しかし、部屋の隅でガタガタ震えていつでも命乞いする準備は万端。

 そんな二人に言われた任務内容、筆頭の寝室でお留守番。
 暫く殺気入り人形が座っていたが、何を思ったのか一度退室。
 帰ってきたときにはいくらかマシになっていた。あくまで、もいくらか。

 何かヤバイ組織を芋づる式に引っ張り上げられそうだと言う事は知っていた。
 しかし、何を思ったか筆頭自ら敵陣へ乗り込むなど誰も思ってはいなかった。
 敵を引きずり出しつつ自分はふんぞり返って機会を待つ、そういう男だったらしいのに。
 ……そう仕込んだのは今は亡き二人の指導役の一人、アガレスだったらしいが。

 最初の内は会話もした。
 例えば、流石に「お気に入り」に手を出されてキレたのか、とか。
 それこそ相方と下世話な話をしようとして……今に至る。

 武器その他もベッドに詰め込まれ、さすがに抗議しようとした所……。
「暗殺に最も適した瞬間をご存じですか?」
 つまり、そう言う、よい子に理解して欲しくない役をしろと言うわけで。
 高いびきの相方と啜り泣く自分。季節は温暖期、まさに一夏の想い出。

 もし、天井裏からその『気配』を窺う者が居たならそう思ったろう。
 この場にいる自分とて、目の前にいるはずの気配を捉えられないのだから。

 そのまま暫く啜り泣いていてくださいとまで言われた。
 アナタそんな乙女なキャラじゃないでしょう。
 等と口にしたらゴートゥヘル。ただし生きたまま。
 自分たちが事後の筆頭とその副官なら、アナタは等身大の……
 これ以上は考えるだけで万死に値しそうなのでやめておく。

 もうアサシンでも夜明けでもいいからさっさと来て欲しい。
 そう願いながら、偽りの啜り泣きを沈めていく。
 敷き布団に沈めたボウガンを握り、天井裏の気配に全神経を集中して。
 相棒の高いびきが偽りのそれに切り替わった、直後。

―ぱっこん
 仕掛け天井が抜ける音。

―スコッ……
 突き刺さる音二つ、

―どざさっ……スタタタッ……
 着地音が五つに落下音が二つ。

―ドッ……ゴッ!
 全ては毛布を翻した二人が各々の武器を構えて真上の標的を殴り倒すまでの間に。

 眠り投げナイフを受けて昏倒する者二名。二人に殴り倒された者二名。
 立ち竦む残り五人の襲撃者の向く先で、しゃらと鋼の擦れる音。
 音もなく放たれたそれが奥に潜む十人目の肩と膝を射貫いて動きを封じた。

 襲撃者は動けない。
 不意を突かれた事、微塵の気配も察する事が出来なかった事、どちらも違う。
「筆頭ならここにはいませんよ」
 響くのはどことなく低く、甘い声。恐怖の演出にはなれど色気など微塵も感じない。
 彼女の立ち上がる様は、鋼の部品を仕込んだ仕掛け人形のようだった。

 ベッドの上で構えるナイト二人も同様に動けない。
 目配せは出来ても、いつもの任務で叩くような軽口が出てこない。
 しかし内心は同じ。
(嗚呼哀れ、俺らはただの噛ませ犬)
 ドレスに仕込まれた鋼の総重量はいかほどか。
 人形の一挙一動でその涼しげな音だけが響く。

 フリルで彩られた裾からその凶暴性がチラリと覗く。
「どうせ、帰る先も今頃は火の海でしょうし」

 ジャリッ

 涼しげな音を鳴らしていたそれが耳障りな音と共にその本性を露わにする。
 裾から延びた鋼の爪牙。
 持ち上げられたスカートの下で、広がった袖の下で、鈴なりの次が獲物を待つ。

「今宵は機嫌が優れませんので、降伏でしたら、お早めに」
 事実上の処刑宣告だった。

【仇と仇】

 一体何処で何を誤ったのか。どこかで変えることはできなかったのか。
 どこかで、避けることは出来なかったのか。
 早足で自室に向かうルシフェンの思考を占めるのはそればかりだった。
 返り血でも浴びていれば、その匂いが現実に引き戻してくれたかもしれない。
 しかし、歩けど歩けどこぼれ落ちるのは煤の匂い。

 その半分は横を歩く赤衣の騎士のものだったが。
「おじさーん。いっつまで凹んでるつもりぃ?」
 纏う硝煙の香りは自前。いつもならこの子から血錆の匂いが充満しているのだが。
 使った弾丸は主に麻酔、麻痺、睡眠等。殺傷能力の低い物に限られた。
 銃も同じ。火力よりそれらを扱える物を選んでいた。非常に、珍しく。
「プロ二人入り相手にして死ななかっただけで上々だと思うけどねー」
 解ってはいる。
 誰一人殺めずにその職務を全うできたなら、それだけで伝説だ。
「それにさ、泣いて叫んでぶっ倒れ。結構健全な凹み方なんじゃないの?」

 そう。全ては上手く回っている。
 しかし、まだ上があると思うと素直に喜べない。

 彼女に対し、アガレスの意を汲んで減刑するよう取りなせば良かったか?
 あの男を小物と捨て置かず、息の根を止めてしまえば良かったか?
 それとも……幼い頃から側につきこんな道に踏み込まぬよう努めるべきであったか。

「それとも、僕はいつも通り返り血たっぷり浴びてくれば良かった?」
「バカを言え」

 私情で強権を振るえば今まで自分が切り捨ててきた腐れ貴族と同じだ。
 無為に恐怖を振りまけば要らぬ敵を作り味方の心も離れていく。
 あの時は……ただ怖かった。

 一体何処で何を誤ったのか。どこかで変えることはできなかったのか。
 どこかで、避けることは出来なかったのか。

「まあ、当時の僕やおじさんより、ディは強かったって事で」

 それは例えば、金獅子が暴れた跡ような自室の有様とか。

【ホントにホントのオマケ寸劇】
――バーテン猫の花語り――

※――
 照明を落としたバー。スポットライトの下にコップを磨くバーテン猫。
 キュッキュッキュッキュと磨く音が暫く続く。
 スポットライトに気付いたバーテン、コップを置いてこちらを向いて一礼。
※――

 これは失礼。先ほどのコップを洗っておりました。
 とっくにキレイに落ちてるとは思うんですがホラ、一応お口に入る物を扱ってますから。

 カッツェさんが生けていた花ですか?
 ああ、それならお客様の手の届かないところに植えて……え、違う?
 作中申し上げた通り、あの花は鈴蘭でございます。

 6枚の花弁で小さな釣り鐘状の花をいくつも咲かせる可愛らしい花でございます。
 香りも良く、三大フローラルの一つなんだとか……。
 成分が非常に微量で抽出も難しいので、模倣した物が主なんですが。

 白いイメージが強いかもしれませんが一部地域には赤いのもあるんですよ。
 まあ、赤と言ってもうっすらとだったり斑点だったりしますが。

 主な花言葉は「春と幸福の再来」ですかね。
 東方のそれは葉の下に隠れるいじらしい姿から「君影草」と呼ばれているそうです。
 カッツェさんの名前の元になった言語では「天国の階段」と呼ばれているとか。
 その姿から、花言葉や呼び名には可愛らしい物が多いですね。

 でも、実は何処にでも生える逞しい花だったりします。
 Lilly of Valley……「谷間の姫百合」なんて別名もありますし。
 学名のConvallaria―コンバラリア―もそこから来てるのですかね?
 ……彼女の出身である砂漠には流石に無かったと思いますが。

 もう一輪挿してあった花はランポスズラン。
 作中にあったとおり、六枚の花弁のうち一枚が鮮やかな紅でございます。
 こちらはテロス密林の名産で、トレジャーとしての価値はまあそこそこ。
 でも、毒性がございます。没ネタの一つにこんな言葉が。
 ランポスズラン、本性はイーオスズランとね。

 そう。毒草でございます。本家本元の鈴蘭もまたしかり。
 軒先に植えてしまったのをちょっと後悔しています。
 彼女に注意されて、移そうと思っていた矢先の事でした。

 ……ええ、コップの毒はもうとっくに落ちてると思います。水溶性の強い毒ですから。
 どれほどかと言えば、生けた水さえ口にすればお命の保証をしかねるほど。
 主な症状は心不全や血圧低下、最悪の場合は心臓麻痺。
 この毒は心臓に作用するのでございます。

 花に最も多く含まれ、次いで茎に。実や葉、全草が毒でございます。
 黒幕の一人は踏み込んだとき心臓麻痺でぽっくりとか考えていたらしいですよ。
 それ何処のデ○ノートって事で止めたそうなんですが。

 そう。それが「Convallatoxin―コンバラトキシン―」鈴蘭の毒。
 FirstKillのサブタイトル。心を侵し、人を殺める毒にございます。

 ですがね、薬としても使われておるのですよ。
 強心作用。弱り切った心臓に力を与える側面もあるのです。
 副作用その他の面で、ジキタリスのそれには叶わなかったようですが。

 ……彼女の名前は、毒草である事を望まれました。
 とびきり美しく、とびきり清楚な、
知らねば、一生そうと気付かないような。
 さらに贅沢を言えば、愛でている間はその香りで心を癒すような。

 その全てを満たし、毒の性質が雨と彼に結びつきました。
 この花しか無いと言っても過言で無かったのでございます。

 ええ、彼女の名乗った「ミューゲ」も鈴蘭の別の呼び方です。
 聖母の涙という意味があるのだとか。
 ある国ではミューゲの日と言って、互いの幸福を願って鈴蘭を送り合うそうですよ。
 「君に幸あれ」とね。

 ……あ、最後にもう一つ。
 鈴蘭から作られた水薬は「黄金水」と呼ばれ、思い人に振り掛けると願いが叶うんだそうな。
 媚薬?
 いえいえ、そんな妖しい物ではございません。
 本当に純粋に、恋のおまじない、ですよ。

 それでは、これにて。

※――
 暗転。閉幕。
※――